横浜地方裁判所 昭和60年(わ)3926号・昭61年(わ)340号・昭61年(わ)874号・昭61年(わ)883号 判決
右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西賢二出席のうえ審理をし、次のとおり判決をする。
主文
被告人を懲役一年に処する。
未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一(井山正一関係)
小島葵、庄司孝英、俵利美、新開一史、金田こと金義信、井山健一、井山一男、井山正一と共謀のうえ、右井山正一が相続税申告の代理人をしていた、井山くの死亡により同人の財産を相続した井山ハル、井山和栄、井山剛之の各相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により、右相続税を免れようと企て、昭和五九年四月二日、埼玉県浦和市常磐四丁目一一番一九号所在の所轄浦和税務署において、同税務署長に対し、被相続人井山くの死亡により同人の財産を相続した右井山ハル、井山和栄、井山剛之の正規の相続税課税価格は、別表(一)「正規の相続税課税価格」欄記載のとおり、合計六億六一五八万四〇〇〇円であったのにかかわらず、右井山くには宍戸三男に対する四億八〇〇〇万円の保証債務があり、これを右井山ハル、井山和栄、井山剛之において、右別表「保証債務額」欄記載のとおり、それぞれ負担することが確定したので、それぞれの取得財産の価額からこれを控除すると、右井山ハル、井山和栄、井山剛之の相続税課税価格は、右別表「申告相続税課税価格」欄記載のとおり、合計一億八三七五万八〇〇〇円で、それぞれ遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると、右井山ハル、井山和栄、井山剛之の相続税額は、右別表「申告相続税額」欄記載のとおり、合計五四一五万九六〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右別表「正規の相続税額」欄記載の右井山ハル、井山和栄、井山剛之の正規の相続税額合計二億六〇七七万七一〇〇円と右申告税額合計との差額二億六六一万七五〇〇円を免れ、
第二(飯田嘉翁関係)
小島葵、金義信、中村晃三、飯田嘉翁と共謀のうえ、右飯田嘉翁の実父飯田一彦の死亡により同人の財産を相続した右飯田嘉翁及び右飯田嘉翁が相続税申告の代理人をしていた共同相続人の飯田悦子、飯田玲子の各相続税について、架空未払金を計上して課税価格を減少させる方法により、右相続税を免れようと企て、同年八月二三日、同市常磐四丁目一一番一九号所在の所轄浦和税務署において、同税務署長に対し、被相続人飯田一彦の死亡により同人の財産を相続した右飯田悦子、飯田嘉翁、飯田玲子の正規の相続税課税価格は、別表(二)「正規の相続税課税価格」欄記載のとおり、合計一七億一四五〇万九〇〇〇円であったのにかかわらず、右飯田一彦には高畠玉枝に対して一三億九〇九四万円の未払債務があり、これを右飯田悦子、飯田嘉翁、飯田玲子において、右別表「債務額」欄記載のとおり、それぞれ負担することが確定したので、それぞれの取得財産の価額からこれを控除すると、右飯田悦子、飯田嘉翁、飯田玲子の相続税課税価格は、右別表「申告相続税課税価格」欄記載のとおり、合計四億三九一二万四〇〇〇円で、それぞれ遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると、右飯田悦子、飯田嘉翁、飯田玲子の相続税額は、右別表「申告相続税額」欄記載のとおり、合計五七六七万八〇〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右別表「正規の相続税額」欄記載の右飯田悦子、飯田嘉翁、飯田玲子の正規の相続税額合計四億九二七〇万八七〇〇円と右三名の右申告税額合計との差額四億三五〇三万七〇〇円を免れ、
第三(福田一雄・まき子関係)
小島葵、俵利美、福田一雄、福田まき子と共謀のうえ、右福田一雄の実父で、かつ、右福田まき子の養父である福田精一の死亡により同人の財産を相続した右福田一雄、福田まき子の各相続税について、架空債務を計上して課税価格を減少させる方法により、右相続税を免れようと企て、昭和六〇年五月二二日、東京都足立区栗原三丁目一〇番六号所在の所轄西新井税務署において、同税務署長に対し、被相続人福田精一の死亡により同人の財産を相続した右福田一雄、福田まき子の正規の相続税課税価格は、別表(三)「正規の相続税課税価格」欄記載のとおり、合計八億九八五五万九〇〇〇円であったのにかかわらず、右福田精一には川野栄子に対する四億五五〇〇万円の債務があり、これを右福田一雄、福田まき子において、右別表「債務額」欄記載のとおり、それぞれ負担することが確定したので、それぞれの取得財産の価額からこれを控除すると、右福田一雄、福田まき子の相続税課税価格は、右別表「申告相続税課税価格」欄記載のとおり、合計四億五〇三八万七〇〇〇円でそれぞれ遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると、右福田一雄、福田まき子の相続税額は、右別表「申告相続税額」欄記載のとおり、合計一億八五二二万二〇〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右別表「正規の相続税額」欄記載の右福田一雄、福田まき子の正規の相続税額合計四億七五九六万六八〇〇円と右申告税額合計との差額二億九〇七四万四八〇〇円を免れ、
第四(矢部重雄関係)
小島葵、俵利美、矢部重雄と共謀のうえ、右矢部重雄の実父矢部和太郎の死亡により同人の財産を相続した右矢部重雄の相続税について、架空債務を計上して課税価格を減少させる等の方法により、右相続税を免れようと企て、同年六月二〇日、東京都葛飾区立石六丁目一番三号所在の所轄葛飾税務署において、同税務署長に対し、右矢部重雄の正規の相続税課税価格は一一億三四七七万七〇〇〇円で相続人全員の正規の相続税課税価格総額に占める割合は約〇・七であったのにかかわらず、右矢部和太郎には甘利宇洲根に対する三億円の債務があり、これを右矢部重雄において全額負担することが確定したので、取得財産の価額からこれを控除すると、右矢部重雄の相続税課税価格は、五億一五〇一万一〇〇〇円で、相続人全員の相続税課税価格総額に占める割合は約〇・三九にすぎず、遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると、右矢部重雄の相続税額は三億三六六万八八〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右矢部重雄の正規の相続税額六億九六九九万七三〇〇円と右申告税額との差額三億九三三二万八五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述(第四七回、第五三回)
一 分離前の共同被告人小島葵の当公判廷における供述(第四七回)
判示第一の事実について
一 公判調書(第四回、第三四回)中の被告人の供述部分
一 被告人の当公判廷における供述(第三六回)
一 被告人(昭和六〇年一二月六日付、同月二〇日付二通、同月二一日付)の検察官に対する各供述調書
一 公判調書(第四回)中の分離前の共同被告人小島葵、庄司孝英、俵利美、新開一史、金義信、井山健一、井山一男、井山正一の各供述部分
一 小島葵(同年一二月二日付、同月九日付二通)、庄司孝英(同年一二月一一日付、同月一四日付、同月一七日付、同月二一日付)、俵利美(同年一二月一二日付)、新開一史(同年一二月一一日付、同月一二日付)、金義信(同年一二月六日付、同月二一日付)、井山健一(四通)、井山一男(五通)、井山正一(七通)の検察官に対する各供述調書
一 井山和栄の検察官に対する供述調書
一 井山和栄、井山ハル、井山剛之、近藤う、安西ケイの大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成(井山和栄らの相続税に関するもの)の保証債務調査書、有価証券調査書、未収地代調査書、土地調査書、公租公課調査書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則けん疑者井山和栄のもの)
一 押収してある相続税の申告書綴一綴(昭和六〇年押第七二六号の五)、相続税の申告関係書綴一綴(同号の六)、遺産分割協議書・領収証綴一綴(同号の七)
判示第二の事実について
一 公判調書(第六回、第三四回)中の被告人の供述部分
一 被告人の当公判廷における供述(第三六回)
一 被告人(昭和六一年一月一四日付、同年二月一三日付)の検察官に対する各供述調書
一 公判調書(第六回)中の分離前の共同被告人小島葵、金義信、中村晃三、飯田嘉翁の各供述部分
一 分離前の共同被告人小島葵(第三九回)の当公判廷における供述
一 小島葵(昭和六〇年一二月一五日付五六枚綴りのもの、同日付八枚綴りのもの、昭和六一年二月七日付)、金義信(同年二月一〇日付)、中村晃三(同年一月二七日付)、飯田嘉翁(五通)の検察官に対する各供述調書
一 飯田悦子、飯田玲子、唐沢郁也、高畠玉枝の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成(飯田嘉翁らの相続税に関するもの)の未払金調査書、預金調査書、生命保険契約の権利調査書、損害保険契約の権利調査書、預り金調査書、申告調整金調査書
一 飯田嘉翁作成の提出書
一 大蔵事務官作成の昭和六〇年八月二三日付領置てん末書(犯則けん疑者飯田嘉翁のもの)
一 押収してある相続税の申告書綴二綴(同号の八、九)、相続税の修正申告書綴一綴(同号の一〇)
判示第三の事実について
一 公判調書(第七回)中の被告人の供述部分
一 被告人の当公判廷における供述(第四一回)
一 被告人(昭和六一年二月二一日付三六枚綴りのもの、同月二一日付三枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 公判調書(第七回)中の分離前の共同被告人小島葵、俵利美、福田一雄、福田まき子の各供述部分
一 分離前の共同被告人小島葵の当公判廷における供述(第四一回)
一 小島葵(昭和六〇年一二月一五日付二三枚綴りのもの)、俵利美(同年一二月一六日付九枚綴りのもの)、福田一雄、福田まき子の検察官に対する各供述調書
一 福田一雄の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 国武昇、福島修一(謄本)、清水俊彦(謄本)の検察官に対する各供述調書
一 山崎恭子、大盛英信、萩原一善、川野栄子の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 東京都足立区長作成の戸籍謄本(福田精一の戸籍)
一 大蔵事務官作成(福田一雄らの相続税に関するもの)の借入金調査書、未払金調査書、未払利息調査書、預り敷金調査書、土地調査書、家屋調査書、現金調査書、普通預金調査書、定期預金調査書、出資金調査書、家庭用財産調査書、その他の財産調査書、代償分割(未払金)調査書、代償分割(未収金)調査書、公租公課調査書、葬式費用調査書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者福田一雄のもの・記録第三三号)
一 押収してある相続税の申告書綴二綴(同号の一一、一二)、相続税の申告書控一綴(同号の一三)
判示第四の事実について
一 公判調書(第七回)中の被告人の供述部分
一 被告人の当公判廷における供述(第四四回)
一 被告人(昭和六一年二月二一日付三一枚綴りのもの、同年三月七日付)の検察官に対する各供述調書
一 公判調書(第七回)中の分離前の共同被告人小島葵、俵利美、矢部重雄の各供述部分
一 分離前の共同被告人小島葵の当公判廷における供述(第四四回)
一 小島葵(昭和六〇年一二月一五日付三六枚綴りのもの、昭和六一年二月一九日付、同年三月六日付二通)俵利美(昭和六〇年一二月一六日付二九枚綴りのもの、昭和六一年三月六日付)、矢部重雄の検察官に対する各供述調書
一 矢部重雄の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 矢部文男、福島修一、清水俊彦の検察官に対する各供述調書
一 矢部ちよ(二通)、鈴木靜子、佐藤邦郎(二通)、岩城守一(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 東京都葛飾区長作成の戸籍謄本(矢部和太郎の戸籍)
一 大蔵事務官作成(矢部重雄の相続税に関するもの)の、土地調査書(二通)、建物調査書、預貯金調査書、出資金調査書、建物更生共済積立金調査書、未払金調査書(二通)、預り金調査書、租税公課調査書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者矢部重雄のもの・記録第四三号)
一 押収してある相続税の申告書控一綴(同号の一四)、相続税の申告書綴一綴(同号の一五)、遺産分割協議書写一冊(同号の一六)、預金通帳一冊(同号の一七)
(法令の適用)
被告人の判示の各所為は刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項(判示第一、第二の各所為についてさらに同法七一条一項)に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示の第二の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で、被告人を懲役一年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中五〇日を右刑に算入することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告人が、分離前の共同被告人小島葵が中心になって行った巨額のいわゆる脱税請負事件に関与したものであるが、その脱税請負は合計四件、逋脱額にして一三億二五七二万円余にのぼり、逋脱率は最高約八八パーセント、平均約六九パーセントであって、非常に規模の大きい脱税事犯といわねばならない。本件犯行は、小島が共犯者俵を使って相続税法一三条を悪用して申告書を作成させるなどして、納税義務者の納付すべき税額を不正に免れたものである。被告人は共犯者庄司から脱税請負グループの存在を紹介され、「客」である納税義務者を捜し、見つかると小島らへ橋渡しをし、脱税工作においてその準備などに関与したものであって、積極的に加担したものということができ、以上の諸点を考えれば被告人の刑事責任は重大であるといわねばならない。
しかしながら、本件は小島の主導によるものであり、被告人の立場は相対的には従属的なものであること、被告人が納税義務者側から支払われた謝礼のうち受け取った額は約四五〇〇万円であるが、これについては被告人はすでに返すなどしていること、被告人は当公判廷において反省の態度を示していることなどの事情もあるので、これらを総合考慮のうえ、被告人を主文の刑に処するを相当と思料したものである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田耕生 裁判官 秋山敬 裁判官坂本宗一は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 上田耕生)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>
別表(三)
<省略>